おすすめ度:★★★☆☆
引き込まれ度:★★★★☆
奥深さ:★☆☆☆☆
泣ける度:★★★☆☆
分類:アクション、史実
おすすめムード:ドキドキ、ハラハラ
〜あらすじ〜
2001年9月11日、アメリカで起きた飛行機ハイジャックによる同時多発テロ。
その瞬間、ワールドトレードセンター(WTC)のエレベーターの一つに乗り合わせていた5人は動かなくなったエレベーターの密閉空間に閉じ込められる。
最初は突然のことに何が起きたかもわからない。スマホもない時代、外からの情報は、非常ボタンで通信が繋がった時に会話できるエレベーター管理係のメッツィー頼り。
だんだんと深刻な状況が明らかになっていく。
「ビルで家事がおきていて消火を終えたら救助が来る」
「この原因はビルに飛行機がぶつかったことらしい」
「どうやら事故ではなく我々は故意に攻撃を受けている」
「ここは危険だから今すぐ逃げなくては。救助の手は回らない」
果たして5人は崩壊するビルから逃げおおせることができるのか。
〜ストーリー〜
主人公のジェフリーは妻のイヴと離婚の話し合いのためWTCに来ていた。自家用ジェットも所持する大金持ちだが、仕事人で海外出張が多くいつも家にいないジェフリーにイヴは愛想をつかし離婚したがっていた。対するジェフリーは、忙しく働いているのは家族のためだと離婚に同意せず、決定は先延ばしに。1階へ降りて帰るつもりが間違えて上りのエレベーターに乗ってしまったが、いつかは下へ向かうからと言って、途中で降りることなく気長に乗っている。
マイケルは黒人でバイクメッセンジャーをしており、その仕事でWTCのエレベーターに乗っていた。この日は最愛の娘の誕生日。仕事前の朝に、妻とばたばたと祝ってきたところだった。
エディーはWTCの保安技術者。ビル内の故障などに対応する業務を請け負う技術者で、この日も鍵の修理に呼ばれて工具を持ち上階へ向かっていた。
ティナは、お金で買えるものをなんでも与えてくれる年長の男性(交際相手?)との関係を清算するために、身なりに念を入れ緊張してWTCを訪れていた。
5人それぞれが日常の朝を迎えていた。高層ビルのエレベーターらしく各階でたくさんの人が乗ったり降りたりする。そんな時に、37階あたりの階と階の間で突然エレベーターが大きく揺れて停止。最初はエレベーターの故障だから業者が来るだろうと悠長に話しているものの、外となかなか連絡が取れない。たまたま乗っていた技術者のエディーを筆頭にエレベーターからの脱出方法を探るが、ただならぬ状況がだんだんと明らかになっていく。高層階で不安定に揺れるエレベーターの箱の中で、ビルがやがて崩壊すること、エレベーターはおそらく1階まで落下することを悟り、何が起きているのかもはっきりとわからないまま、居合わせた5人はなんとか協力して生きて帰ろうと試みる。
〜ネタバレ・考察〜
こういう時によく聞くのは、「普段と何も変わらない、ごく普通の朝だった」という話。
でも、今回の登場人物、つまりエレベーターに閉じ込められた5人はちょっと違う。普段と変わらない日常を送っていたのはビルの技術者エディーだけで、ほかはみんな普段ならこのビルにいないはずの人たち。特別な日、非日常の朝だった。
ジェフリーとイヴ夫妻は離婚協議のために集合していたし、マイケルは娘の誕生日。ティナは交際相手に別れを告げるため、彼の職場であるWTCを訪れていた。
被害者は、事故に遭うべくして遭った人たちばかりではないのだ。この日のこの時間に限ってここにいた人たち。普段ならいなかったのに、今日だけ。特別な日に限ってこんなことになってしまった人たち。
そして、階下に降りようとしたのに間違って上階行きに載ってしまったジェフリー・イブ夫妻。エレベーターを間違えさえしなければ、または間違ったと気づいた時すぐに降りていれば、難を逃れていたかもしれない。実際に、エレベーターに乗ろうとしてやめた人や、事故の直前にエレベーターを降りた人たちの描写があった。事故とは、そういうものなのだ。そこにいた人に無差別に襲い掛かる。運命という言葉で表すにはあまりにもあっさりと残酷に、その時たまたま間違えてそこに来てしまった人たちにも容赦なく。
以下ネタバレあり
最初はエレベーターの故障だろうと考え助けを待っていたが、次第に事態を察知しはじめエディーを筆頭に脱出を試みる。
どうやら止まっているのは37階周辺の階と階の間の空間らしい。外部の助けを借り、なんとかエレベーターの扉をこじあけ壁を破壊すると、掃除用具部屋へとつながる小さなスペースが現れた。まずイブが部屋へ抜けることとなったが、事故の衝撃とこれまでの作業の振動のせいでエレベーターをつるしているロープは切れ、残り1本のみが支えている状態になっていた。がくんという衝撃で少し落下し、不安定にぐらぐらと揺れる箱の中で、なんとかイブだけが部屋への脱出に成功し、そこで5人はこの箱がすぐに落下するということを悟った。
ジェフリーに諭されイブは1階まで階段を駆け下りる。イブ以外の4人は落下に備えて床に伏せた。案の定すぐに最後のロープは切れ、4人はエレベーターとともに1階まで自由落下する。
一方、1階についた妻は、逃げ惑う人の波に逆らってビルへ向かい、すれ違った消防士に助けを求め、ともにビルへ戻る。
ビルの1階で各エレベーターの扉の前でジェフリーを探し呼び掛けていると、声が聞こえる扉を見つけて消防士とこじ開けたが、そこから出てきたのは知らない男性だった。それでもまた扉を探し続けると、ある扉からジェフリーたちの声が聞こえてくる。今度こそ、と開いた扉からようやく見慣れた5人が見え、みんな頭にけがを負いながらも無事に一人ずつ脱出してきて、各々抱きしめ再開を喜びあう。
しかし不運なことに、最後にエディーとジェフリーが譲り合い、エディーが先に脱出したところで箱はまた少し落下する。このわずかな落下のせいで、1階との交通部分は人が通れない狭さになってしまった。
絶望するジェフリーとパニックになるイブ。ビルが崩壊することを感じ取ったジェフリーは、仲間たちにイブを連れてビルから逃げるよう告げ、マイケルは泣き叫ぶイブを抱きかかえて、ほかの仲間たちとともに後ろめたい顔で振り返りながらビルを後にする。
そして最後のシーンもまた印象的だ。
仲間を逃がしたあと、絶望の淵で、消防士が隣のエレベーターの枠から周り、箱の天井を開けてジェフリーを助けに来る。
助かったと思ったのも束の間、天井から伸ばされた消防士の手をなんとか掴むものの、消防士の腕一本では彼の全体重を引き上げることはできず、手を握りあったまま全く動けずお互いの顔は歪み汗が滲む。
やがて上の方からミシミシッというビルが軋むような不吉な音がする。それでも、何が起きようとしているか悟ったはずの消防士も最後までつかんだ手を緩めない。ジェフリーは手を握ったまま静かに目を閉じ、そこで暗転して映画は終わる。
描写はないが、ジェフリーと消防士が助からなかったことがわかる。この5人のエピソードは実話ではないが、史実は、結局全員が助かる映画のようなものではなかったということと、実際の911でも実に300人以上の消防士が崩落に巻き込まれて死亡していることを示しているのだろう。
興味深いのは、映画を通じて変化し続ける夫妻の関係性だ。
映画の始まりはそもそも夫妻の離婚協議で、妻が仕事人間の夫に離婚をつきつけているところだった。夫が妻や家族を愛していることは間違いない。ただ仕事が忙しすぎるのだ。妻は、海外出張ばかりでいつも大事な時にそばにいない夫に嫌気がさしている。
夫は妻への愛情表現を続けるが、妻は拒否し続けて結婚指輪まで外してしまい、取りつく島もない。
でも、閉じ込められたエレベーターの中で、黒人男性が「金持ちで白人のあんたには何もわからない」とジェフリーを攻撃すると、すかさずに「この人の家庭は決して楽な暮らしじゃなかった。それを努力で挽回してここまで築き上げてきた、この人はそんな人なのよ!」と自分が傷つけられたかのように反論。
そしてようやく妻の母に連絡がついた時には、息子に対して「パパもママももうすぐ一緒に帰るからね」と必死で話しかける。その時の二人は、子どものために仲の良い両親としてふるまったというよりも、息子という共通の宝を前に、生きて帰り息子に会うという共通の目標を見出した、そして最愛の息子のためには互いが欠けることなく助け合うことが最優先だと認識したかけがえのない戦友であった。
イブだけが部屋へ脱出でき、エレベーターごと階下へ落ちていく夫と別れるシーンからは、もう離婚の話などどこへやらというほどイブは夫から離れられない。「逃げろ、死ぬ気で1階まで走って建物から逃げるんだ」という夫に、イブは「あなたを置いてなんてどこにも行かない!」と叫ぶ。「この箱は落ちる。1階まで行くだろうからロビーで会おう」夫はそう妻を諭すと、妻のはずした指輪を大切そうに掲げ、ほかの3人とともに落下に備え床に伏せた。夫に諭されて事態を察したイブは「わかった、1階で会いましょう。必ず助けにいくから!」と言い残して階段へ向かった。
1階へ降りても、ビルから逃げ出す人々をかき分けて消防士を連れて崩壊するビルへ戻るイブには、なんの迷いも感じられなかった。やはりジェフリーは、仕事が忙しいことを理由に離婚を突きつけてはいても心の底から愛している、イブにとって自分の命すら惜しくない大切な存在であったのだ。
最後にジェフリーだけが脱出に失敗した場面ではイブはもうなりふり構わず取り乱していた。「このビルはもう崩壊する。逃げろ!」とジェフリーはせっかくエレベーターから脱出した仲間たちを逃がそうとするが、「絶対にあなたを置いていかない!」とイブは泣きわめく。最後は「マイケル、イブを外に連れ出してくれ」とジェフリーは静かに告げ、マイケルは泣き叫ぶイブを連れ出したが、イブはもうジェフリーを置いていくくらいなら自分もともに死ぬことすら厭わなかった。
ここで忘れずに書いておきたい存在であるのが、エレベーター管理者のメッツィーだ。彼女は同部署の中で誰より最後、消防隊に避難を促されるまで責任をもって閉じ込められたエレベーターの乗客を励まし、脱出方法を共に探るべく職務を全うした。
最後の最後は、デスクに置いている家族写真をまじまじと眺め、「わたし行かないと。ごめんなさい。」とエディーたちに呼び掛けて脱出する。
ビルを出たところで、夫たちを助けに戻るイブとすれ違う。エレベーター内に人を残したまま自分は助かることへの申し訳なさと、これでよいのかという迷いの表情を終始浮かべながらも、崩壊するビルに戻ることはなく離れることを選ぶ。その脳裏に浮かんでいるのは家族なのだ。
ビルに戻るイブと去るメッツィー。この二人はエレベーターのマイクを通じて会話している。お互いに顔はわからないため相手を認識はしないが、同じ5人を助けようと闘った人間であり、また二人とも愛する家族を思い浮かべているが、その行動は対照的に描かれている。
自分が生きたいかどうかではない。家族がすべてなのだ。「家族がいるから生きて帰られなくてはならない、だから去らなくてはならない」メッツィーと、「家族を助けるためなら命も惜しくない、だからビルへ戻る」イブ。一見真逆にも見えるその行動は、「愛する家族とともにある」というたった一つの同じ目標のためのものなのだ。
ここでメッツィーは決して悪としては描かれていない。やれることはすべて手を尽くし、それでも仲間と乗客を助けられなかったがもうこれ以上できることも何もない、というところで、それでもなお、マイクで励ますほかなすすべはないまま5人を見守っていた。もはや彼女がいてもいなくても状況は変わらない中で、救助されるところまでを見届けられないことを心苦しく思いながら、家族写真を前に葛藤しながら去る。
家族とは、命が危険にさらされたときに最優先に思い出される存在で、そのためなら自分の命を捨てることも、どんな罪悪感を背負う覚悟すらも躊躇わせないものなのだと感じた。