おもちゃばこ

旅行とか、映画とか、好きなものを自己満足程度ですがシェアできたらいいなと思っています!

『明日、君がいない ~2:37誰か一人が死ぬ~』ネタバレあり

おすすめ度:★★★☆☆

引き込まれ度:★★★★☆

奥深さ:★★★★★

泣ける度:★★☆☆☆

分類:サスペンス、ミステリー、考えさせられる、暗い

おすすめムード:じっくりしんみり考えたい時。

 

 

昔レンタルで見たものですがとっても思うことの多い作品で、未だに思い出す数少ない映画なのでシェアしたくて、当時のメモから引っ張ってきました。

「高校生の悩み」みたいな話。ミステリーみたいなイメージで借りたけどすごく考えさせられる話だった。なんていうか、すごく。

ズーンと重くて、引きずる。悪く言えば後味の悪い映画。だけどそれ以上に考えることが大きい。

監督は19歳で着手して完成当時21歳だったらしい。自殺した親友のエピソードに重ねて作ったとか。

~あらすじ~

始まりは誰かが学校の一室で自殺している不穏なシーンから。

簡単に言えば、「一人自殺します、さあ誰でしょう?」って感じで、そのあとはいろんな種類の悩みを抱えた6人の高校生たちのある一日にそれぞれ着目する。

各々苦しんでるんだなって思うシーンが映されて、毎回独白が挟まれる。どの悩みも深刻で誰が死んでもおかしくないなあなんて考えながら見ています。でもその中で一番辛いのは誰だろう…となってた頃に終盤に入る。

で、死ぬシーンが出てきて、えええこの子⁉ってなる。

~ストーリー~

放課後の高校。女の子がある部屋をしきりにノックしてる。「開けて!開けて!」

何事かと駆け付けた教師が、本当に中に人がいるんだね、と女子生徒に確認をとると同時に、鍵を持ってこい!と誰かに叫ぶ。その時、鍵のかかった部屋の中から血が流れてくる。ようやく鍵を手に入れてドアを開けると…「なんてことなの!」とみんなが驚くところで、その日の朝に時間が戻る。

 

ここからは6人の生徒それぞれの目線から「その日」が映されます。

【メロディー】

子供が好きで将来は保母さんになるのが夢だが、兄マーカスばかりをかわいがる両親からの愛情に飢えている。

父は出張でおらず母は放浪癖があり、マーカスと二人暮らし。母に電話を掛けても結局「マーカスを頼む」と言われるだけ。

「その日」は朝から泣いていた。13歳の時から体を触られていたマーカスから近親相姦された結果、妊娠してしまったことが学校で発覚する。その上、それを同級生のサラに見られたことから噂が広まってしまう。

授業中も涙が流れるので早退を決め、教室を出て一人泣いているところへ噂を聞きつけたマーカスがやってきて、さらになじられ乱暴される。

 

【マーカス】

メロデイーの兄。優秀な父を尊敬している。

自身も成績優秀でピアノもできるが、友達とはあまりつるまない。どうせ彼らはまともなものになれないとほくそえんでいる。

しかし親からの過剰な期待もあり90点を超えないと許してもらえず常にプレッシャーを感じている。90点に届かず、加点してもらえるよう先生に何度も頭を下げるが聞き入れられずいらいらする。また、いらいらついでか妹を強姦した様子を作文に書き先生から問いただされる。

「その日」は、図書館にいる時にメロディーが妊娠した話を聞かされ、怒りをいろんなものにぶつけまくる。最後は泣いている妹のところにいき、「全部おまえのせいだ」と暴行してそのまま学校を出る。

 

【ショーン】

ゲイだと公言している。同性婚に関するディスカッションの授業でもしっかりと同性婚は問題ないと述べており、普段から言われたら言い返す性格。

しかし、親にはゲイだと告白しても理解されず、一過性のものだと慰められる。また学校でも人気者の同級生ルークの取り巻きの男子生徒達からは散々からかわれ、いじめられている。

ルークを好きになってしまいおそらく一度関係を持ったが、それ以降避けられており、どうすればいいんだと思い悩む。

学校では隠れて麻薬を吸っている。

 

【ルーク】

勉強はまっぴらだが学校一のスポーティーイケメンで人気物。同級生のサラと付き合っている。女子からの人気はもちろん、男子の取り巻きもいる。

取り巻きたちにはできたことのない彼女がいることをいつもステイタスのように思っている。そして取り巻きとともに同級生のスティーブンやショーンを笑ったりいじめたり。

しかし実はゲイで、家ではゲイ向けのビデオを見ており、ショーンと関係を持ったこともある。それを隠すためにサラと付き合っているようなもの。

「その日」はトイレでショーンにキスされ、「お前がゲイだなんてみんな知っている」と言われた。さらにそれを通りすがりのスティーブンに聞かれてしまった。

 

【スティーブン】

イギリスから転校してきた。

体に障害があるのでいつも足を引きずって歩き、階段では手すりが必須。さらには尿道が二つあり、一つは自分の意思でコントロールできないのでいつも気付かないうちに漏らしてしまい、笑われる。

イギリスでは皆理解してくれていたが転校先ではただ笑われ、からかわれ、悪口を投げかけられていじめられるだけ。教師にすら理解されず皮肉を言われる。

優しい家族に愛されているが、それゆえいじめのことを相談できない。

「その日」、トイレにいるとたまたまショーンとルークが入ってきて、ルークがゲイだという話が聞こえてきてしまう。トイレから出ると、「今の話を誰かに言ったら殺す」とルークに殴られ、そのまま床にへたり込み、初めて泣く。

 

【サラ】

学校一の人気者ルークに選ばれたことを誇りに思っていて、高校卒業後は何よりも結婚して家庭を築きたいと思っている。

校内でもルークと関係を持ち、会うたびにキスするが、最近のルークはそっけない。会いに行ってキスしてもすぐにいなくなってしまう。

「その日」は、トイレで吐いて出てくると(妊娠している?と思ったがその後描写はなし)、陽性の妊娠検査薬を持って出てきたメロディーに出くわす。最近ルークはそっけなくてメロディーとよく一緒に居るし、メロディーの相手はルークなんじゃないかと思ってイライラする。メロディーのそばを捨て台詞を吐きながら通ってこれみよがしにルークにキスしたりするが、それでもルークはすぐ行ってしまう。

 

以下ネタバレです。

さあ、この6人、一体誰?と思ったところでよく見ると、登場人物はもう一人いた。6人の「その日」の中に、実はいつも存在していた女の子。誰も注目することなく、名前すら死ぬまで明かされることのなかった少女ケリー。

最後に、初めて彼女にスポットライトがあたる。彼女の「その日」。

 

【ケリー】

小柄でブロンドの女の子。いつもにこにこ静かに笑っていて、周りの誰かを常に気遣っている。「その日」だって、自殺する直前までそうだった。

朝は、勉強しかできないと思われていたマーカスがピアノを弾いている時に隣へ座り、話しかけていた。「作文読んだわ。あれは誰かイメージした人がいるの?それは誰?」これだけの会話をするのに随分時間がかかっていた。ピアノに集中しているマーカスからそれぞれ返事をもらうのにとても時間がかかったから。マーカスは無視こそしないけれど明らかにケリーと話すつもりはない。それでもケリーは一生懸命話しかける。最後の質問には答えず行ってしまうマーカスの背中を見つめるケリー。

 

さらに、殴られて鼻血が出ているスティーブンとすれ違った時には心配してティッシュを差し出していた。はじめにスティーブン目線でその描写を見た時は、ケリーの顔は出なかったから、いつも誰一人彼に同情もせずいじめるこの学校で彼に手を差し伸べてくれたのは一体誰だろう、と思っていた。しかしスティーブン自身は特別喜ぶ風もなく「ありがとう」と受け取って顔を拭きながら行ってしまう。

そして次の瞬間その優しい子の顔が映る。ケリーだった。そしてまだ同じ場所に立っていた。「ねえ」と呼び掛けて彼はふり返る。「大丈夫?」彼を心配してくれた人は初めて。なのに彼は「ああ」と行ってしまう。彼女はその背中を見送っていた。

 

 

その後、今度はマーカスが来る。メロディーが妊娠したことを聞かされて怒ってるところだったんだけど、そんなことケリーは知らず、楽譜を差し出す。「ねえ、これ今朝話してたやつよ…」それをロッカーの前で差し出されたマーカスは楽譜をケリーの手からむしりとってそのままロッカーにぶち込み、ロッカーをバタンと閉めて行ってしまう。一人取り残されるケリー。

 

そして、次の描写ではメロディーがマーカスに暴力を振られている。これはさっきメロディー目線のところで見た描写。しかし、初めてその横を通り過ぎるケリーが中心にいる。わたしは思った、「見てケリー!メロディーを助けてあげて。事情を聴いてあげて。」

でも、ケリーはもう見向きもしなかった。

もう自殺を決心したあとの、初めて映るケリー中心の世界。そこに、さっきまで主人公であった二人の争う姿は端の方にぽつんと映るだけで存在感はなく、世界から音も消えていた。

そして彼女はトイレへ向かい、筆箱から取り出したハサミで腕を切り、血の中で泣きながら死んでいく。息絶えたあとで、ドアの外から激しくノックする音や、開けろ、と叫ぶ声が聞こえる…。

 

最後に、主要6人がもう一度出て来て彼女の死について話す。

マーカス「彼女は幸せそうに見えた。悩んでたなら相談してくれれば助けられたかもしれないのに。」

ルーク「僕たちは自分の悩みに精一杯で、他人の悩みに気付けないんだ。」

サラ「彼女とまともに最後に話したのは小学校の時よ。10年も前。」

ティーブン「彼女は友だちだったから残念だよ。」

 

そして最後にケリーが出てくる。初めての独白。

ここで初めて「ああ彼女の名前はケリーって言うんだ」となる。ここまでのストーリーでずっと登場していたのに誰も呼ばなかった。つまり、誰からも必要とされていなかった。そしてそのことに視聴者も気づきさえしなかった。

映画の中の登場人物たちも同じことなんだろう。いなくなって初めて存在を認識するような、彼女はそんな存在だったのかもしれない。

 

しかし、彼女の独白は、全く死の臭いがしない。彼女が実は心に抱えていた闇というものを、ここでようやく聞けるかと思っていたので拍子抜けした。

「あのね、姉に息子ができたの。本当に本当にかわいいの。この間甥に会ったんだけど、こうやって『ミヤーオ』って猫の真似してくれたの。」

他の6人が深刻な表情で自分の悩みを語る中、彼女だけが終始ケタケタと笑いながら楽しい話をする。

そう、そう見えていたんだ彼女は。いつも幸せな子、楽しいことばかりで悩みのない子。なのにどうして死んでしまったの?

 

~感想・考察~

ちょっとずるいのは、着目されてた誰でもない、毎回ちらっと映るだけの子が正解だったこと。見終わった時は意味が分からなかった。え?なんであの子?

でも、それこそがまさにこの映画のテーマですごいところ。

若い監督というのが納得。21歳の監督は当初の私と同い年だった。さらには19で着手したというのもあって、というか、この若さならではの着目点だなと。

すごく、すごく共感したの。

親からのプレッシャーだとか、成績の悩み、同性愛、恋愛関係、近親相姦、妊娠、病気、いじめ…6人が闘っていたのはどれもそれぞれとても辛いだろうけど、他方、わかりやすく言葉にできるような悩みはないけれど、ただ存在感の薄さとか、他人に必要とされないとか、そういう、人に言っても一蹴されそうな苦しみというものが存在する。そして、漠然として根本的な解決方法がないこんな悩みこそ、相談もできず解決しようもなく難しい。

 

ケリーはいつも幸せそうににこにこして、そっと人の後ろにいるような控えめで優しい子だった。でも、本当は誰より弱くて悩んでいて、助けを求めていた。

他の人たちは普通に生活しているだけで友だちとお互い求めあい、必要な相手であった。でもケリーは、どう頑張ってもそうはなれない。影が薄くて、男の子に思いを寄せてみても、女王様のような女の子と歩いてみても、いじめられている子に優しくしても心配しても、相手の視界に入れない。

何より問題だったのは、別に誰も意図的にいじわるしたり無視したり仲間はずれにしたりいじめているわけじゃないこと。ただなんとなく彼女は空気のような存在なのだ。どんなに一生懸命話しかけても近寄っても、誰かの視界に入ることはできない。なんとか会話を試みてもうわべだけで相手の心はそこにない。そして、学校で自殺を図って、その時初めてみんながその存在を意識するような、そんな子。

 

思えば、いつも彼女は自分から手を差し伸べていた。イライラしている様子のマーカスにも殴られたスティーブンにも。でも、会話は最低限のものしか生まれない。そして去っていく背中を見つめている。当初は、「この子本当に大丈夫なのかなあ」って心から心配してる世話好きの子なんだなって思ったけれど、後から考えれば、彼女自身の苦しみを映した描写だったんだろう。

優しく周りに気を遣っているようだったけれど、実は、誰かに必要とされたくて、誰かの視界に入りたくて必死だったのかもしれない。彼女は本当の意味では誰からも見えていないのだ。殴られた後のスティーブン目線の描写で、ティッシュをくれた彼女の顔が映らなかったのは、スティーブンが「ティッシュをくれた人」が誰かを意識していなかったから。ティッシュをくれた、ありがとう。だけどそれが誰かは彼にとって問題ではなかった。別にそれは彼が特別悪いわけではなく、そういうものなんだっていうこと。

 

それが辛いことであると私はわかる。クラス替えで友達が誰もいなかった時、同じように思ったことがあるから。

別にいじめられたりなんてしないし、仲間外れでもない。あるグループに入れてもらって毎日一緒にお昼も食べていた。普通に会話もできた。

だけど。私の名は呼ばれない。自分から話しかけなければ誰も私個人に向けて話しかけてくることはない。仲間に入ろうと、自分から話を振っておもしろい話をしても、その時みんなは笑ってくれても、私自身にそんなに興味を示してくれることはない。

ふとした時に湧き上がる寂しさがあった。ケリーほど深刻じゃなかったし、それで自殺しようと思うこともなかったけれど。

だけどわかる。何とも言えない苦しさ。表面上は何も問題ない。だから相談することもできない。私の場合は「今年は運が悪かった、次のクラス替えに期待してこの1年は我慢!」と割り切れたけれど、それがケリーの場合は今だけじゃなくて、物心ついた時からずっと悩まされてきたことだったんじゃないか。

この寂しさこそ誰にも言えず、どんなに頑張っても報われず、その痛みが自死につながってしまいかねないというのも十分に理解できる。

 

この、学生ならではの繊細な悩みを、瑞々しい感性と絶妙な着眼点でうまくテーマとして表現されたこの若き監督には本当に脱帽です。